「綱吉?」
ふと後ろから聞こえてきた声に綱吉の耳がぴくんと立つ。
「ヒバリさん?」
「もしかしてずっとここに、…ッ!」
音もたてずに走りよったヒバリは綱吉に近づいて、すんと鼻をならした。
「?」
「…綱吉、君、誰かといた?」
嗅ぎなれない、いや嗅いだことのある匂いに全身の毛が逆立つのを感じた。
「あ、はい!骸さんっていう、オレの初めてのとも」
「…あいつと?」
低い声。綱吉の尻尾がびくんと立った。ヒバリのそんな声は初めて聞いた。
どうしたんだろうと不安げにヒバリを見ると、瞳孔の開いた目とかち合った。
「どうしてあいつといたの、綱吉」
平坦な口調の奥にひそむ怒りを感じ取り、綱吉はうろたえる。何故こんなに怒っているのかがわからない。
「どうしてって…」
ヒバリはわきあがる殺意を奥歯をかみ締めて堪える。綱吉が怯えてしまう。自分を落ち着けようと息を吐きながら綱吉に言い聞かせる。
「今度からあいつと話しちゃ駄目だよ」
綱吉の大きな瞳が見開かれる。どうしてとつぶやきかけた言葉はしかし別の言葉にかわった。
「嫌です!」
「、…綱吉」
思いもしなかった反応に驚く。綱吉は納得がいかないときっとヒバリを睨む。
「なんでそんなこと言うんですか!骸さんはいい猫なのに!」
「勘違いしているよ、綱吉。あいつは君が言うようなやつじゃない」
「ヒ、ヒバリさんが勘違いしてるんじゃないんですか!?だって骸さんは」
「君の口からあいつの名前を聞きたくない」
吐き出した言葉に込められた、冷たいそれ。
綱吉が骸を気にかけることが我慢できない。苛立つ彼の心情をそのまま写したように尻尾が落ち着きなく動く。
駄目だ。これ以上話すとひどいことを言ってしまう。
「とにかく。もうあいつと会っちゃ駄目だよ」
それだけ言って寝床に行こうとする。するりと綱吉の横を通ろうとしたヒバリは、次の瞬間尻尾に走った軽い痛みに思わず後ろを振り向く。
「っ、綱吉?」
「ヒバリさんの馬鹿!」
綱吉が雲雀の尻尾に噛み付いていた。
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