並盛幼稚園において、沢田綱吉と雲雀恭弥は常にセットとして扱われる。
幼稚園児とも思えない頭脳と暴力性をひめた雲雀と、すぐにいじめられる泣き虫な綱吉。そんな二人が一人と一人ではなく、二人、になったとき、園児と先生の泣き声と怪我が少なくなったのだ。
ミニトンファーで血を飛び散らせる凶暴な悪魔は、腕を振るう代わりに綱吉を最優先させることになったので。





とたとた、ズル、べしゃ、と続く擬音に、本を読んでいた雲雀は顔を上げた。
群れを嫌う雲雀の性質をよく知っている園児は、彼がいる部屋にはけして近寄らない。平気な顔をして寄ってくるのは、そばにいることを許すのはただ一人、

「ひばりさん」

小さなひ弱い女の子、綱吉だけなのだ。
ひょこん、と顔だけ覗かせて雲雀を見る。転んだ拍子にぶつけたおでこを押さえている。少し赤くなっているが、廊下に敷いてある絨毯のおかげか泣き出すことはなかったようだ。
パタン、と本を閉じた雲雀は座ったまま手招きをした。

「おいで、つなよし」
「! はい!」

ぱあっと嬉しげに寄ってくる。まろんだ頬が喜びに林檎のように赤く染まる。ぱたぱたと見えない尻尾が揺れているのが見えるようだ。雲雀は口元をほころばせた。
壁に寄りかかって座っている雲雀の傍まで来て、彼に促されるまま綱吉は雲雀の隣に腰を下ろす。えへへ、と可愛らしく笑う少女の頭を優しく撫でた。

「どうしたの?」
「あのね、せんせいがさっき、おっきくなったらなにになるってきいたんです」
「うん」
「それでね、ツナはおっきくなったらひばりさんになりたいっておもったの」
「…うん?」

何か今よくわからないことを聞いた様な気がする、と雲雀は首を傾げた。もう一回言って、というと、ぱちぱちと大きな琥珀を瞬きして、綱吉はにっこりと繰り返した。

「ツナ、おっきくなったらひばりさんになるの!」
「…つなよし」
「はい!」
「おおきくなっても僕にはなれないと思うよ」
「えー」

ぷっくりと頬をふくらませる。ぷるぷるとした唇を尖らせて、なれるもん、と主張する子どもは大層可愛らしい。可愛らしいけれど、それでもなれないものはなれないのだと、どう説明すれば分かってもらえるだろうか。
雲雀はふくらんだまろい頬を指で突きながら考える。

「つなよしが僕になったら、僕はいやだな」
「な、なんで?」

びっくりして綱吉は素っ頓狂な声をだした。だって綱吉が雲雀になれば、強くなれるし泣くこともないのだ。今みたいに雲雀がいない間にいじめられることもなくなるし、いいことばかりなのに。

「だって僕はいまのままのつなよしが好きだから、つなよしはつなよしのままがいい」
「!」

思わず綱吉は雲雀に勢いよく抱きつく。ぎゅう、と突然の抱擁に少し驚いた雲雀はけれど、すぐに抱きしめ返した。

「つなよし?」
「ツナはおっきくなってもツナでいい!」
「うん」
「ひばりさんだいすき!」
「うん、僕もつなよしが大好きだよ」




とくとくと心臓の音を伝え合う、喜びの形を知っている二人は今日も幸せです。





余談

「あのねー、ひばりさん、ツナ、あともういっこなりたいのあった」
「何になりたいの?」
「きょだいロボットー!」
「…そう。がんばって」
「? うん、がんばる!」




本当は雲雀さんになる、の話の流れで「それじゃあきょだいロボットでいいやー」「そっか(…妥協して巨大ロボットなんだ)」っていう話にしたかった。