5年後?くらいのカズケン





真夜中に突然目が覚めるのは、そうあることではない。
健二は眠りにつくまでは時間がかかるが、一度寝付いてしまえば基本的に朝までしっかりと眠れるタイプだ。けれどごくたまに理由もなく目が冷めてしまうときがある。
身体はまだ睡眠を欲しているのか、頭の中も霞がかったようにぼんやりとしていた。身じろぎをするとわずかに身体を拘束する力を感じて、あれ、と思う。同時に目を開き、納得する。佳主馬が、健二を抱きしめたまま眠っていた。静かな寝息が耳をくすぐる。暗闇に馴染んだ目で、健二はその様子をじっと見つめた。野性味が増した整った顔は瞼を閉じた無防備な表情でいると、出逢った頃の面影があった。もっとも、
(あの頃からずっと佳主馬くんはかっこいいけど)
親友が聞いたらお前の惚気はキリがないとぐったりしそうなことを内心で呟き、健二はむずむずと口元を動かす。「かずまくん」起こすつもりなど毛頭ない、独り言のようなそれは思ってもみなかったほどの甘みを含んでいて、きっと健二がしっかりと目が覚めていたならば、うわぁと赤面してしまいそうなものだった。けれど今は頭の中が半分寝ぼけている状態で、普段は身体にくっついている羞恥心とか、そういったものも一緒に眠っているようだから、ちっとも恥ずかしくない。そろそろと腕を動かして、酷薄な唇の上、そっと指で触れる。すうすう、形の良い唇をうっすらと開いたまま、高校生男児は良く眠っている。「かずまくん」「…ん」返事が返ってきた。起こしてしまっただろうかと手をひっこめようとするのもつかの間、もぞもぞとこちらへと寄ってくる。健二の腰に回ったままの腕はそのまま、身体と身体の距離がなくなるほど近づいて、満足したように佳主馬は動かなくなった。口元にはほころんでいる。すうすう、その落ち着いた寝息とぬくもりにだんだんと力の入らなくなった瞼を下ろす。腕の中、再び訪れる眠気に身を任せた。





真夜中の恋




09.09.16