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「祐平と真悟!? なんでお前らここに」
「東京観光」
「あちー、東京暑すぎ。ありえねー」
「佳主馬兄、健二いんの?」
「健二さんだろ、真悟」
とっさに注意する。家主の許可も待たずにリュックを背負った二人は、おじゃましまーすと言いながらずかずかと家に上がりこんだ。
佳主馬はげんなりとため息をついた。せっかく今日は健二とベッドの中で過ごそうと思っていたのに。何のために仕事をがんばったのかわからない。
重い足取りで祐平と真悟の後ろからリビングに行く。玄関から聞こえた声で慌てて身支度を整えたのだろう、健二が冷たい麦茶を二人に差し出していた。
リビングの出入り口で立ち止まっている佳主馬をちらりと見て、苦笑する。
「佳主馬くんもいる?」
「…うん」
冷たい麦茶で咽を潤すと、肩の力が抜けた。健二の隣に腰掛けると、高校生になりますますふてぶてしくなった又従弟たちは、初めて来たくせに我が家にいるかのようにくつろぎだした。あ、と思い出したように祐平が健二と佳主馬に言った。
「これから東京観光するから、荷物置かせて。あと泊まっていい?」
「そういうことは来てから言うな。前もって連絡しろ」
「多分そのうち母さんから電話くるぜ」
「そういう問題じゃない!」
いつになく苛立っている又従兄に、祐平と真悟は顔を見合わせる。

「佳主馬くん」

健二が佳主馬の名を呼ぶと、はああ、と佳主馬は肩を落とした。いっそ気づかないふりをしてしまいたい。その声に込められた意味を正確に読み取って、恨めしげに健二を見やる。
「ひどいよ、健二さん…」
「あとで埋め合わせするから」
何の話をしているのか分からないが、そのの一言で佳主馬の顔つきが真剣なものに変わる。くやしいことに同性の目から見ても、端整な顔だ。
「本当に?」
「うん。指きりする?」
「「………」」
にこにこと笑いながら小指を差し出す健二に、祐平と真悟はぽかんとそろって口を開けた。指きりって、この人は佳主馬をいくつだと思っているんだろう。だがそんな二人の前で、佳主馬はためらうことなく自分の小指を絡ませた。無表情で歌う。
「ゆーびきーりげんまん、うそついたらしばらくがいしゅつきんし」
「えええ、そういう歌だっけ」
笑う健二は、とても27歳の男だとは思えない。完全に佳主馬の機嫌を治した彼は血のつながりこそないものの、れっきとした陣内家の人間だなと妙なところで祐平は感心した。
「でも真悟くん、翔太兄に似てきたね」
ふと健二は視線を真悟に向けて、しみじみと言った。その瞬間真悟の顔が歪み、祐平は爆笑する。
「げっやめろよ!」
「そこまで嫌がることないだろ。血のつながりがあるんだから似てたって当然じゃん」
「祐平は似てねーからそんなこと言えるんだよ!オレは翔太兄ほど単純猿じゃねーし!」
単純猿はひどいなあと苦笑する健二の隣で、言い得て妙だと佳主馬は頷く。
「あ、翔太兄といえば、結婚することになったって二人とも知ってた?」
「そうなの?めでたいね!」
「へえ」
「彼女にプロポーズしたら、『私が断ったら多分あんた一生独身ね。可哀想だから結婚してあげる』ってOKされたんだって」
「すごい人だねえ」
「……」
「佳主馬くん?」
「いや、これで陣内家の女性陣がもっと強くなるのかと思っただけ。お盆に挨拶にくるのか?」
「たぶん」
ふうん、とあまり興味なさそうな佳主馬はコップに残っていた麦茶を飲み干す。立ち上がりカップを手早く洗って食器たてに置く。
「シャワー浴びてくる」
「はーい」
「佳主馬兄」
「なに?」
背中に声をかけると、肩越しに振り向かれる。祐平は眼鏡のふちに触れながら口を開いた。
「昼ごはん食べたら出かけるから、用意しといて。健二も」
「は?勝手に行けばいい」
何で俺たちまで、と嫌な顔をする佳主馬に二人同時に答える。

「スポンサーがほしい」
「新幹線代で金消えてるんだよね」



現実的な理由だった。