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祐平と真悟の希望通り東京タワーに上ったあと(夏休みのためか、やたらと子どもが多かった)、家族へのお土産を買うために浅草まで出向いた四人は休憩にとカフェテリアに入った。
自動ドアが開いた瞬間感じるクーラーの冷えた温度にほっと息を洩らす。
空いていたテーブルに通されて早々に健二は立ち上がる。
「祐平くんと真悟くんは何か飲みたいものある?」
「冷たいのなら何でもいい」
「俺も」
「分かった。佳主馬くんはいつものでいい?」
「健二さん、俺が行くよ」
席を立とうとする佳主馬を押しとどめて、健二は僕が一番近いからと財布を手にレジに向かっていった。





「佳主馬兄ってさ」

健二の後ろ姿を見つめている佳主馬の横顔に、祐平が呆れを含んだ感心したような声で口を開く。
「健二のこと、ほんと好きだよね」
な、と隣に座る真悟に相槌を求めると、異論なしとばかりに彼は頷いた。
幼いころ、といっても曾祖母が亡くなり、AIによって世界中が混乱になったあの夏からずっと、健二と佳主馬はいつも一緒にいたような記憶がある。あまり自分たちにかまってくれなかった、基本的に一人でいることを好む年上の又従兄が、健二にだけは違った。
佳主馬と健二が恋人と呼べる間柄になったのは、果たしていつからなのか祐平たちは知らない。気づけば彼らはいつも一緒にいた。納戸にいけばたいてい健二を捕まえることができたから、彼を引っ張って追いかけっこをしたりかくれんぼをしたり、散々遊んだ記憶がある。そうするといつの間にか佳主馬も見えるところにいて、そのくせ自分たちの輪に入ることなくじっとこちらを見ていた。…あれは、健二を、見ていたのだろうけど。
あまりにも一緒にいることが自然だったため、恋人だと家族の前で佳主馬が打ち明けたとき(あれも夏の、夜だった)、大人たちはぽかんと口を開けてびっくりしていたけれど誰も反対しなかったのだ。十七代目当主である万理子も少しは驚いたようだが、あっさりと受け入れた。「夏希の婿だろうが佳主馬の恋人だろうが、どっちにしろ健二くんが陣内家の人間であることには変わりないものね」と。
そのときの祐平と真悟といえば小学校中学年で、知識としてはホモという言葉を知っていたけれど、だからといって二人に対する嫌悪感など湧かなかったし、むしろへえそうなんだで終わった気がする。


「好きだよ」
照れもせずにあっさりと、何当たり前のことを言ってるんだとばかりに返される。
相変わらず健二からは目を離さないまま。
「ていうかさ」
今度は真悟が言う。
「佳主馬兄って、ホモなの?」
カフェテリアに入った途端に店中の女の人たちから視線を送られていた男は(気づいてないというよりはどうでもいいのだろう)、そこでようやく頭を動かして真悟を見た。
「さあ。健二さん以外好きになったことがないから分からない」
「ふうん。健二も?」
「健二は最初夏希姉ちゃんのことが好きだったから違うんじゃないか?」
「リャクダツアイだったんだろ?」
「違う」
略奪愛くらい漢字で言え。カタコトのような言葉遣いに呆れた佳主馬が背もたれに寄りかかる。
健二の、夏希に対する愛情は本物だ。それは佳主馬も否定できない。
けれどそれは恋愛のそれと位置づけるには、あまりにも綺麗すぎた。陣内家に来てあの戦いをともに生まれた感情は、あこがれから変化して家族に対するような、無償のものに変わってしまったのだ。
人の機微に聡い佳主馬は、早い段階からそれを悟っていた。だから二人が友達以上恋人未満のまま交際している最中に告白することもためらわなかった。
「へえ。それじゃあ健二が女でも好きになった?」
「健二さんなら、たとえ女だろうが子どもだろうが年寄りだろうが惚れてたよ」

「何の話?」

きっぱりと言い切ったとき、トレイに飲み物を四つ置いた健二が戻ってきた。
「ありがとう」
「どういたしまして。はい、何でもいいって言われたからアイスコーヒーとアイスティーにしたけど、どっちがいい?」
「アイスティー」
「コーヒー」
見事に分かれた二人に、よかったと健二はそれぞれを渡す。
佳主馬の隣に腰を落ち着かせた健二は、それで、と口を開いた。
「皆で何の話してたの?」
「健二は佳主馬が女でも好きになってた?」
質問を質問で返されて、健二は目を瞬かせた。さほど考えることなく、さらりと答える。
「佳主馬くんは女の子でもすごく美人だろうねえ。今でも格好良くて綺麗だから」
「いや、そうじゃなくて」
「たぶん佳主馬くんが佳主馬くんなら、好きになるんだろうな」
のほほんと微笑む健二を、これでもかと言わんばかりの幸せそうな笑顔を浮かべた(基本的に無表情の佳主馬がここまで蕩けた笑顔を見せるなんて、健二の前以外ではありえないことを陣内家の人間なら皆知っている)佳主馬がじっと見つめる。
祐平と真悟はストローを噛みながら顔を見合わせた。以心伝心。



(やっぱバカップルだ、こいつら)

まあ今更といえば、今更なのだけれども。