「僕が18になるまで待って。そしたらお嫁にきて」
真剣な、思いつめた表情で彼はそう言った。
健二の両手を包む佳主馬のそれらは、緊張のせいか冷えていた。ぐっと、力強く握り締められて、手のひらがじんわりと汗をかいていることに気づく余裕は二人ともない。
固まった健二を見上げて、その距離すらも悔しいと佳主馬は奥歯をかみ締める。どうすればこの気持ちが伝わるんだろう。この、どうしようもなく自分の中のすべてを支配する想い、を。いっそのことこの胸を開いて、心臓を見せればいいだろうか、なんて馬鹿な考えを笑うことすらもできない。どうがんばっても4歳の差はけして、埋まらない。次の瞬間には誰かが健二をさらっていくかもしれない。自分がまだ子どものうちに。あの夏、家族を失うとき感じたものとは違う、けれどまぎれもない恐怖に、何度眠れない夜があったかなんて、この人は知らない。
「まだ子どもにしか思えないことは分かってる、だから、健二さん」
健二の手は佳主馬が思うよりもずっと小さかった。柔らかい感触に、今更ながら彼女が異性であることを実感する。
名前を、呼ぶ。願うような切なげな響きは、どこまでも恋情に満ちていた。
「僕が追いつくまで、待っていて」
お願いだから、誰よりも幸せにするから。だから、
佳主馬が去っていた後、一人残された納戸で健二は呆然と立ち尽くした。
ぎこちなく両の手のひらを見つめる。この手を、ぎゅっと握り締めていた佳主馬の手の感触がよみがえる。もっと小さいと思っていた、パソコンを駆使してキングカズマを自在に操るその手は、自分のものよりも大きかった。
あの戦いのときを別とすれば、いつだって冷静だった彼が、黒曜石の瞳に熱を燈して、待っていてと、恋を囁いた。飲み込まれる。ひゅう、とか細い息が漏れた。
「子どもなんて、そんなの」
ぽつり、意識しないままに健二の口が動く。沸点を超えてどんどん顔が熱くなっていくのが分かる。飲み込まれて溺れてしまう。呼吸を求めて喘ぐように、咽をふさぐ何かが音になる。
「思えない、よ」
どくどくと逸る心臓の音が耳の奥で聞こえる。
くたり、力の抜けてへたり込む。脳裏に、佳主馬が消えてくれない。
恋に溺れた日