がらり、と扉が閉まる音がやけに響いた。

一糸纏わぬ姿の佳主馬に健二は唇を震わせる。少年期から鍛えられた身体は、いっそ美しいとさえ思える。
「健二さん?」
どうしたの、と欲情を隠そうともしない声でいいながら、佳主馬は両腕で胸を覆う彼女を白いタイルへと押しつけた。
「か、佳主馬くん、ああああの、」
「落ち着きなよ」
健二が押し倒したときの混乱ぶりなどなかったかのような青年に、いっそ悲鳴を上げたくなる。
(なんでこんなに落ち着いてるわけ?!)
ひいい、近いよ!と半泣き状態の健二を笑うかと思えばそんなこともなく、佳主馬は健二の両の手をつかんで、彼女の胸元から引き離した。
「佳主馬くん?!」
「俺に全部、みせて」
隠さないで、と蜂蜜が蕩けるような甘さで囁く。そうして近づいてくる端整な顔に、健二は羞恥の所為ではなく頬を染めた。
「ず、ずるい、よ…」
そんなこと言われたら逆らえるわけがない。
掴んでいた彼女の手から力が抜けるのを感じる。先ほどの情事の余韻でぽってりと赤くはれた唇を食みながら、佳主馬はずるいのはそっちのほうだと内心で呻く。長年想い続けてきた初恋のひとの裸を目の前にして(しかも事後のいやらしさとかわいらしさときたらもう!)、何もしないでいられるわけがないではないか。
「…っ、」
そろり、と佳主馬の手が健二の乳房に触れる。柔らかなそれは佳主馬の手にほどよく収まるサイズで、ふにりと形を変える。
「ァ…ッ」
「かわいい、健二さん」
夢中になって揉みしだきながら、親指の先でつんと立ち上がった赤い乳首を擦ると、びくんと華奢な肩が震える。
「あん、あ、だめ、かずまくん…っ」
「駄目?なんで?」
「だ…っ、きれいにするって、」
「うん、後でするから」
今はこっち、と。佳主馬は健二の左の乳房にしゃぶりついた。
「ひぁ…!」
コリ、と軽く歯を立てるとあえかな声が健二の口から洩れ出る。それに煽られながら佳主馬は先ほどまで繋がっていた部分に手を這わせた。
「アッ!か、かず」
「とろとろしてる」
佳主馬の熱を受け入れていた花弁は柔く佳主馬の長い指を受け入れる。とろり、と透明な愛液と白濁した自身の放ったものが混じりあって、彼の指を伝い手のひらまで落ちてくるのに、佳主馬はこくりと息を飲んだ。
そのまま指を2本に増やすと、あっとまた声を上げる。他に経験のない自分でも、健二がひどく感じやすいのが分かる。この彼女を知るのは自分だけでいい。
佳主馬は熱い胎内に収めた指の、第二関節をくいと曲げた。かぎ状の形になった指の先が、ざらついた箇所を掠るのと同時、びくんと健二は背を仰け反らせた。
「ひ、ん!あっあっ、な、んでぇっ」
中から新しい愛液が溢れる。ここが気持ちいいのか、と重点的にそこを擦ると、うっすらと目尻に涙を浮かばせた健二がかぶりを振る。
「なんでって?」
「あっ、そこ、こすらない、で…っ」
「擦ってない。綺麗に、してるだけだよ」
「う、うそつき…っ、アン!」
「本当なのに」
涙目の健二さんってそそるなと茹った頭で思いながら、佳主馬はふと健二の隣のシャワーに目に留める。お湯を出してからシャワーヘッドを掴み、人差し指と中指で花弁をくぱり、と開かせてそこに押し付けた。



「ヒ、ああん…ッ!!」



熱い水流に健二は目を見開いて嬌声を上げた。どんな刺激にも快楽として身体は受け入れる。ましてや、敏感な媚肉ならなおさらだ。膣内に入ったままの指が、白濁を掻きだすように動く。
「俺の精液、ちゃんとだしておかないと」
「あっああん!やぁ、あっ、かずまく」
水流の刺激に、胎内がどんどん愛液にぬるつく。ひくついた膣がうごめいて、質量のある熱を欲しがる。これじゃなくて、もっと。華奢な腰を揺らして、健二は啼きながら震える腕で佳主馬のたくましい肩にすがりつく。褐色の肩。血潮の通った熱さに、無意識にあえかな吐息が漏れる。
「健二さん、かわいい」
やらしくてかわいい。たまらないと佳主馬は乾いた唇を舐める。ちらりとのぞかせた赤い舌に、快楽に濡れた鳶色の瞳がいっそう潤む。
「やだ、や、かずまくん、も、ちょうだい…ッ」
「もっと、ちゃんと言って」
親指の腹が、花弁よりも少し上、つんと存在を主張しているクリトリスを押す。ひん!と高く啼いてから、健二は腕を伸ばして佳主馬のそれに指を絡めた。
「…んっ、健二、さんっ」
ぎこちなく、しかし躊躇いを感じさせない動作ですでに怒張した佳主馬の陰茎を擦る。腹につきそうなほど勃起した熱が、喜びにびくびくと震える。佳主馬は思わず声を洩らす。
「…う、あ…っ」
「ね、かずまくん、これ、」
これ、と言いながら亀頭の形をなぞるように、ゆるやかに擦るのがじれったい。目尻を染める佳主馬にぞくぞくと健二は身体を震わせる。胎内がきゅ、と締まり佳主馬の長い指を締め付ける。
これが、ここに欲しい。腰をくねらせて、健二はそう囁いた、瞬間。手の中の佳主馬がどくりと嵩を増した。



「あっ、…っあああぁぁ…ン!」



乱暴に膣から指をひきぬき、思わず声を洩らした健二の片足をぐいと持ち上げる。そのまま自身の熱を花弁の間に突き入れた。一際高い声が、浴室に響く。
「あ、あ、ん!かずまく…!」
「ん、あ、けんじ、さんっ」
佳主馬の手から落ちたシャワーヘッドがカラン、と不満げな音をたてるのにも気づかず、ふたりは固く抱き合う。足元がお湯で濡れていく。
納戸で一度吐精したにもかかわらず、佳主馬の熱の大きさは変わらないまま健二の中を深く犯す。亀頭の部分で子宮をぐりぐりと強く擦られるのがたまらなくて、健二は本能のまま腰をくねらせて、入り口をすぼめる。がくがくと床についている足が震えて、片足が佳主馬のたくましい腰に絡められていて、健二の両腕が彼の首に回されていなければ立っていられなかっただろう。ぽたぽたと足の間から愛液が伝い落ちる。
「あっ、んんぅ、…ぁあ、もち、い…!」
「んっ、おれも、」
健二さんの中が、熱くて気持ちイイ、と。腰をグラインドさせながら息を弾ませて囁く。健二はうっすらと目を開いた。快楽ににじませた涙の向こうで、獣じみた仕草で目を眇める彼のすさまじい艶気に、またきゅんと胎内を濡らす。
「は、ぁん、かずま、くん、かずまく」
ぴったりとくっつく、鍛えられた佳主馬の胸元に押し付けられた乳房の先、つんと立ち上がった乳首が律動のたびに擦れる。ちり、とした甘い痛みに小さく声をあげると、佳主馬が首筋に吸い付いていた。あちらこちらに吸い付いたあと、佳主馬は満足したように唇の端をつりあげる。雪のような白さに、彼がつけた鬱血のあとはひどく映えた。
「あぁ…っ、ん、ん…っ」
下肢の間は溢れたもので泡立つほどで、止まらない律動にぐじゅぐじゅといやらしい音が洩れ出る。それは浴室に響いて、ふたりをひどく興奮させた。
頭がおかしくなる。身体も心も、全部全部佳主馬でいっぱいになって狂ってしまいそうだと蕩けた思考で健二がぼんやりと思ったとき、まるでそれを読んだように佳主馬は細い腰をぐっと掴んでぎりぎりまで自身を引き抜いて、ぐん、と深く貫いて、呻くように健二の耳元で囁く。
「…じさん、健二さん、好き、好きだ…っ」
その瞬間、健二の胎内がものすごい勢いで蠢いた。



「あっ、あぁ…っ、アアンッ!!」



「うぁ…ッ」
すべてを絞るような動きに、佳主馬は息をつめた。瞬間、堪えきれずにぶるりと腰が震えて熱がはじける。
びゅ、びゅ、と連続して奥まで叩きつけられた熱い感触を最後に、健二は意識を失った。
「え、ちょ、健二さん?!」
くたりと腕の中で力を失った健二に、は、は、と荒く息を吐いていた佳主馬はぎょっとして慌てて彼女を支える。
心地よい胎内からずるりと自身を引き抜き、健二を見下ろすときめ細やかな白い頬は涙の跡を残しながらも、血色がいい。あどけない表情なのに、うっすらと開いた唇の紅さに誘われるようにキスを落として、佳主馬は下肢に集まりそうな熱をやりすごす。
「健二さん」
彼女の名前を呼ぶ自分の声は、我ながら蕩けきっていた。
「健二さん、起きたらもう一回、させてね」
返事がない場合は承諾とみなすよ、なんて聞こえないことを承知でいう。ぴくりともしない彼女を抱きしめながら、出しっぱなしのシャワーの存在を思い出して、今度こそ健二の身体を清めなければとシャワーヘッドに手を伸ばした。