泥交じり
ああもう、なきたい。
なんとも言いがたい気持ち。唇が勝手に歪んで、笑みのようなものを形作った。
蛍光灯がちかちか、床を照らす。
背骨が軋む。てのひらにじんわり、汗がうかぶ。ああもう、本当に。
たぶんあと一歩、たとえば彼の声だとか、写真だとか、うちに置いてきっぱなしのシャツだとか、いっそアバターでもいい。関連づけるものを見れば、感じればすぐに身体は反応してしまうだろう。そういう自分は知っている。というか実はそんなことはなくてもいいんだけど。
セックスしたいんだよ、馬鹿。吐き捨てた。
いつからこんな動物になった。愛し合うっていうのは素敵なことだ。素敵だけど愛し合うために、もう少し綺麗な方法はなかったんだろうか。考える。考える間にもとても身体の欲求に正直な手は下肢に伸びていて、ジッパーを下ろして、健二は苦々しげに顔をしかめた。たってるのだ。勃起している。とろり、こぼした先走りを熱にこすり付けるように扱く。手の中の熱さを忘れようと綺麗な愛し方を想像しようと思うのに頭に浮かぶのは佳主馬が自分に突っ込んでいるときの、気持ち良さそうな顔だとか声とか、健二を縛って眇める目とか(彼には少し嗜虐癖があった)(でも健二としては佳主馬を縛るほうが好きだ)(自分の思い通りにならないときの佳主馬のあせった顔を見るとそれだけでイける)、あとそう、顔にぶっかけたときの嬉しそうな顔とかそういうのばかりで、その瞬間健二はあっと声を上げた。馬鹿みたいに濡れた、高い声。なんでこれに佳主馬くんは欲情するのかな。頭の片隅でそんなことを呟いて、佳主馬くんが悪趣味でよかったなあと思う。ほんと、よかった。びくんびくん、震えて吐き出した白濁が手と健二のズボンを汚した。饐えた精液のにおいに、ため息をひとつ。一人でするのは終わってからむなしくなるから嫌だった。
ティッシュペーパーで拭いて、くしゃくしゃになったそれをゴミ箱に投げつける。ストライク。暗くなった部屋、ついとカレンダーを見やった。あと三日。72時間後には佳主馬が帰ってくる。きっとその数時間後にはベッドの上でぎしぎしやってるんだろうと確信に近い推測をして、健二はぺろりと下唇を舌で舐めた。綺麗な愛し方は、きっとこの先も見つからない。
欲求不満の健二さん。たぶん佳主馬は修学旅行とか行ってるんだよ。
なんで普通ににょたじゃないカズケンエロを書こうとすると健二さんがこうなるんだろう。
健二さんは性欲薄くてもいいけど普通にあっても萌える。
09.11.27
09.11.28(加筆微修正)
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