理解不能な君にキス!

※何だか二人ともさりげなく(ない)変態です。






昔はもっと普通の子だったのになあ、と健二は思う。



間違っても男の脇を舐めて興奮するような変態じゃなかったし、足首を強く掴んで指の付け根からねっとりとアイスキャンディーをしゃぶるように嬉々として一本一本舐めるような変態でもなかったし(一度佳主馬くんはそれでイッたことがある)(あのときは酔っ払ってたけど)、だからようするに変態ではなかったはずなのだ、池沢佳主馬という年下の恋人は。
それが今では立派な変態。
しみじみと言ったら佳主馬はそれのどこが悪いのかと鼻をならした。
「別に健二さん以外には興奮しないからいいじゃん」
「いや、その応えもおかしいよね。常識で考えて」
「常識?なにそれ食えるもの?」
「わー…」
さすがキング、発言が違うなーと遠い目をして呟く僕を抱え込みながら、佳主馬くんはかぷりと恋人の白い頬に噛み付いた。痛みを感じさせない程度の甘噛みはちゃんと自分をかまえ、のサイン。外見からの印象そのままに、なかなかに野生動物じみたところがある彼に苦笑してから目を伏せて唇を寄せる。柔らかく触れるだけの口付けを数度すると機嫌よさげに咽を鳴らした。外に出れば隙のない気配をまとい、攻撃するタイミングを測るように鋭い瞳で周囲を見据える彼が空気を和らげて自分にだけ甘えてみせるのが、ひどく好きだった。僕を甘やかすだけ甘やかして、同時に自分も甘えてみせる。そういうことが当たり前になったのはいつからなのか、思い出せない。付き合うよりも前だったような気もするし、付き合い始めてしばらくたってからなような気もする。
そんなことを考えていると気をそらしていると思われたのか、下唇に歯をたてられた。瞳の中の夜の色は少し不満そうに光っている。
ちゃんと佳主馬くんのことしか考えてないよ。言葉にするかわりに、あむ、酷薄な上唇を食べてみた。











俺に言わせれば、と佳主馬は思う。



健二さんはことあるごとに俺のことを変態だとかなんだとか言うけれど、俺に言わせれば健二さんのほうが変態じみたところがあると思っている。実際口にだしていってみたら、君に比べたら僕は普通だとかいわれたけども。普通な人は、あんなにも眼球に執着しない。変態でなければ、フェチズムといってもいいかもしれない、健二さんの癖。
気分が高揚すると、俺の目を舐める。
いっそ食われるんじゃないかと思う俺の眼球を、唯一触れられる角膜をじゅるるるっと吸ってまるでその奥で守られた水晶体を吸いだそうとするように何度も繰り返してはうっとりと笑う。その艶やかな笑みは、それこそ一発で元気になるほどの威力だけれどもやっぱり俺には理解できない。そのまま吸われていたら、視神経がぶちっと切れて眼球がまるごとでてきそうだと思ったことも実は片手で数えられないほどで、さすがにそれは嫌だと思う。現実的に考えればありえないけども。それに比べれば俺が健二さんの匂いで興奮することも(だって脇って一番汗腺が多いところだし)、足の指を舐めて噛んで遊ぶことだって普通じゃないか(それに健二さんの足の指の形がすごく綺麗だ)。前戯としても通じるし。でも健二さんのそれはセックスの合間にもするようなことではない。健二さん、あんまりにあんたが舐めたり吸ったりするものだから俺の目は唾液でぼやけてしまいよく見えません。いやいいんだけどね、別に。
「健二さん」
「んー」
「健二さん」
「今忙しい」
「忙しくないでしょ」
「忙しいんだってば。黙ってないと歯ぁたてるよ」
「…っ」
本気ではないと分かっていても、ぞっとしない脅し文句だ。
こんな近すぎるんじゃ視姦もできやしない。せめて別の場所ならもっと楽しめるのに。
「健二さん、キスしたい」
「…もー」
子どものころのように口を曲げて拗ねた口調で言うと、しぶしぶと目から口を離した健二さんは名残惜しげに俺の目に一つずつキスを落として、今度こそ俺の唇に触れた。
すぐに離れようとする唇に舌を入れて、健二さんのそれと絡める。じっと目を舐められているだけならそのまま押し倒したほうがよっぽど有意義だと思うので。












お互いのことを変態だって思ってるバカップルがいいと思います。

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