トゥルルルル、トゥルルル、



いい加減に目を覚ませと繰り返すように電話は鳴り止まない。最初に鳴り始めてから優に１０分は経ってから、ようやく布団の中から華奢な腕がのそりと這い出し、枕元の怒り狂う携帯電話を掴んだ。

「…し、もし…」
「寝汚いですよ、綱吉君。僕が何分電話したと思ってるんですか？」

朝聴くにふさわしい美声が電話越しで嫌味を告げた。綱吉は目を瞑ったまま眉間にしわをよせる。

「…だいま留守、にしております…。御用のある方は、あとで…おやすみ、」

もう駄目、呟いてそのまま携帯を放る一瞬前に、

「ちょ、綱吉君、いい加減起きなさい！！もう朝の９時ですよ！」

耳元で喚かれて綱吉は、うー、と呻いてから目をうっすら開く。布団をめくるとカーテンの隙間から光が射して顔を照らす。あっという間に立春も過ぎ、春に近づいてきたことを証明するように、それは暖かかった。眩しい。空いた方の手で光をさえぎり、よっこらしょと年寄りじみた声を上げながらむくりと上半身を起こした。

「何の用？」

お前が電話してくるなんて珍しいね、骸。目を擦りながら言うと、疲れた声でおはようございます、と返される。

「凪が最近音沙汰がないと寂しがっていたので、どうしているのかと思いまして」

この、若干ぐったりとした声を聞くのは久々だ。六道骸。１歳年上の、料理専門学校での同期だ。当時の学校のいい男ランキングに在学中堂々１位に輝き続けた美貌の男であるが、綱吉から見れば変な笑い方をする髪形もおもしろい、友達の兄、知り合いというかもしかしたら友達？である。男に興味の欠片もなかった彼女だが、彼の妹の凪とは仲がよかったため、その経由で骸とも知り合いになった。高校在学中に料理する仕事につきたいけどどうすればいいのかわからないと言い切った彼女に、彼女の親戚であるリボーンとああでもないこうでもないと相談しながらその専門学校に決めた人物でもある。すぐ人のことを馬鹿にするわりには面倒見の良い男なのだ。骸はその頃某国立大学へ通っていたが、ここには僕のしたいことがない、僕は僕のしたいこと、つまり料理の道へ進みますと宣言して大学を退学。綱吉と同時に料理専門学校に入学したわけである。その彼は今現在、六曜でイタリアンレストランを開いている。何度か凪と一緒に食べに行ったが、なかなか繁盛しているようだ。

「あ、そっか。凪に謝っておいて。また遊びに行くから。オレは元気だよ。何も変わったことはないし。…あ」

ふと寝る前の出来事が頭をよぎった。

「何です？」
「なあ、最近並盛って物騒なの？」
「何故いきなりそんなことを？」
「んー、昨日お客さんが怪我してて、あまり話してはくれなかったんだけど、どうも並盛で何かあったみたいだから」


布団の端をいじくりまわしながら、綱吉はぼんやりと昨夜のことを思い出した。