口実のタバコと、ついでに綱吉が好んでいたチョコレートを買った骸が店まで戻ると、綱吉は客席で夕食を取っていた。
「あ、おかえりー。骸も食べる?」
「いいえ、結構です。それより、物騒ですよ綱吉君」
「何が?」
「この時間帯に鍵が開いていることが、です。店を閉めたらすぐに鍵を閉める。常識でしょう」
「だってお前帰ってくるし」
「僕が来たらノックして僕だと知らせるから、それから開ければいい」
一緒に食べるかと訊く綱吉に断って、懇々と説教をする。一応これでも女の部類に入るのだから、特にこんな一人でいるときくらいは警戒心を持つべきだ。綱吉はむーっと箸を噛みながら(行儀が悪い)、
「でもここ安全だよ」
「何の根拠があってそんなことを言うんです?」
「本当だって。お店開いてから一度も悪い人来たことないし、ひどい酔っ払いだっていない」
皆礼儀正しくていい人ばっかりだよ、それでも性質の悪い酔っ払いはいるものだって黒川も初めは首傾げてたけど。
「そうそう、いい人っていえば、今朝、あれもう昨日の朝か、骸の話聞いてから思ったんだけどうちの客リーゼント多いんだよ。また流行ってるんだな」
「…それは、…ヒバリキョウヤの部下じゃないですか」
というか、リーゼントはそうそう流行るものではない。だが骸がそうツッコむ前に、
「違うよー、だって本当に皆いい人なんだよ?今日はコレがおいしかった、とか感想くれるし、お店でるときもきっちりお辞儀してでていくし」
にこにこと客のことを話す綱吉に、いや先ほど別れたあの男に対して骸は頭が痛くなって額に手をやった。リーゼントと礼儀正しい、のセットがきたら間違いなく、あの男の部下である。つまりあれか?あの男は本人のみならず部下を客にすることでこの店を変な客から守り、なおかつしっかりと彼女に収入が入るようにしているわけか?
馬鹿らしくなってきたなと思いながら綱吉のために買ってきたチョコレートの欠片をつまみ、スープを啜る綱吉に問う。
「そういえば、さっきの客ですが」
「うん、恭弥さん?」
「いつごろからの常連なんです?」
「え、開店した日から毎日来るよ」
(めろめろじゃないですか、雲雀…!!)
脱力感に襲われてテーブルへ突っ伏しそうになる。何してんの?と呑気にこちらを見る綱吉。
「彼は…」
「うん」
「君から見た彼はどんな人です?」
「え…」
単にあの粗暴な男が好きな女の前ではどうなのかということを知りたかっただけなのだが、骸は数分後訊いたことを後悔する。
「どんな人っていってもなあ。優しい人だよ」
「…そうですか」
「かっこいいし、作ったもの残さず食べてくれるし、おしゃべりな人じゃないけど必要なことはきちんといってくれるし、笑顔も素敵だし、聞いてよ!あの人笑うとすっごい雰囲気がやわらかくなるの!そうそう、このあいだも、」
「わかりました!!君が彼のことをすごく好きだということはよくわかりましたから!!」
「え!?」
ぎょっとしたような顔をされる。何に驚かれたのか分からず、いぶかしげに眉をよせると、綱吉の顔はみるみるうちに真っ赤になった。
「なんでオレが恭弥さんのこと好きだってわかったの!?」
何故これでバレないと思うのか。
今度こそ骸はテーブルに突っ伏した。