―――そう、昨夜…いや本日の日付になったころというべきか。
いつもの時間に訪れた恭弥を迎え入れ、綱吉は驚いた。彼の麗しい顔に擦り傷がいくつもついていたからだ。よくよく見るとコートは埃まみれになっている。血相を変えて問いただすと、どうも外を出歩いていたときに何かあったようだ。あわてて救急箱を持って部屋に通すと消毒をする。渋る恭弥を説き伏せ(実際は綱吉の目に浮かんだ涙に恭弥が折れた)、上半身を脱がせて綱吉は気絶しそうになった。無数の打撲の跡。赤いものから青いものまで、あちこちに散らばるそれらに青ざめる彼女に恭弥は大丈夫だよと安心させるように微笑んだ。見かけのわりには痛くないんだ、こことかもね、数日すれば色も薄くなる。冷静に自己診断した恭弥が、だから心配しないでと続ける前に綱吉は叫んだ。痛いに決まってるでしょう!その拍子にかろうじて目元に留まっていた涙がぽろりと零れ落ち、恭弥はうろたえた。泣かないでよ、とぎこちない仕草で次から次へと零れ落ちるそれらを拭いながら、ほとほと困った様子で子どものように泣きじゃくる彼女の頭を撫でる。
『本当にね、大したことじゃあないんだ。こんなことはよく…はないけど、そうないことでもないから』
でも綱吉を泣かせるんだったら、顔のかすり傷が全部治るまでここには来るべきじゃなかった。怖がらせてごめんね。
そう言って席を立とうとする彼を止めようと、とっさに綱吉は恭弥にしがみつく。怖かったのではない。そうではなくて、
『ちが、違いますっ、恭弥さん!そうじゃなくて、』
必死になって自分の思いを伝えようとする。ただ心配だったこと。怪我でどこかを悪くしたら、あるいはもっとひどい怪我をしたら死んでしまうかもしれないと思ったこと。みっともなく涙声で途中声が裏返りながらうったえる自分を落ち着かせようとするように、その訴えに耳を傾けつつ、時折頷きながら恭弥は己にしがみつく小柄な綱吉を剥がすでもなく、そのままじっとしていた。
『もう怪我はしないようにするよ。君の涙は心臓に悪い』
約束するから、もう泣かないで。
恭弥はそう、綱吉を慰撫するように囁いて、彼女が泣き止むまでその背中をずっと撫でていてくれたのだ。