そこまで回想して綱吉はボワッと火が噴き出るのではないかと思うほど真っ赤になった。気が動転していたとはいえ、あの人に抱きつくなんて、自分はなんてことをしてしまったのだ!

(どどどどどどどどうしよう次会うとき…ていうか今日!?今日会うの!?)

内心パニックになっている彼女を現実に呼び戻すように、骸少し考えながら答える。

「そうですね。まぁ並盛といえば昔からあの男がいますから。その客も彼にやられたのでは?」

あの男、と言ったときの骸の声は冷え冷えとしていた。彼のこんな声は今まで聞いたことがなく、綱吉は首をかしげた。

「『あの男』って誰?」
「……」

しばしの沈黙の後、どこか呆然とした声で逆に聞き返される。

「…君、彼を知らないんですか?」
「いや、ていうかそもそも誰のことをいっているのかさっぱりわからないんだけど」

オレの知ってる人?

「ちょっと待ってください。君今までどうやってあの店を営んできたんですか?」
「え、普通に…」
「シャバ代払ってないんですか?」
「シャバ代?いや払ってないけど。たしか店の土地とか諸々のことはリボーンがなんかしてくれたはずだよ」
「いや、そうではなく。…ああ、でも成程。確かに彼ならあの男とも知り合いでしょうね」

ということはあっちのほうで話をつけた、とか。よくわからないことを呟き、骸は気を取り直したように話を続ける。

「『あの男』の名はヒバリキョウヤ。並盛の…なんといったらいいですね、支配者、とでもいいましょうか、とにかくそんなかんじの男です」
「支配者?んな、時代錯誤な…」

おもしろくない冗談だと笑う綱吉を生真面目に否定する。

「本当ですよ。並盛のありとあらゆる公共機関から町の八百屋までアレの言うがままです。彼の機嫌を損ねれば並盛で暮らすこともできない」
「でもオレ、今までそんなこと聞いたことすらないんだけど…」

いくら高校のときに引越してきたとはいえ、そんなに怖い人がいるなんて周囲の誰も教えてくれなかった。

「これは推測にすぎませんが…君の従兄弟が何か不可侵条約のようなものを結んだんでしょう。…彼も只者ではありませんからね」
「リボーンが?」
「ええ。ヒバリは戦闘狂ですから、強い人間には敬意を払います。大方それで決着をつけんだか何かしたんだと思いますよ」
「せ、戦闘狂って…」
「誓って真実です。かくいう僕だって昨日アレとやりあったばかりですから」
「なッ!お、お前大丈夫!?」
「ええ、何とか今回は骨を持ってかれずにすみました。お互い様ですけどね」

慌てる綱吉に骸は飄々と答える。まるでいつものことだ、とでも言わんばかりに。

「骸は、その…ヒバリさん?と知り合いなの?」
「知り合い…ねえ。まあお互いに面識はあります。まだ僕が若かった頃、僕も六曜町で似たようなことをしていたので」
「…何してたんだお前…」

呆れて綱吉は布団の上にダイブする。ぼふ、羽根布団は彼女を優しく包み込んだ。すりすりと頬ずりをしながら、携帯に耳を傾ける。

「昔の話ですよ。当時は僕も暇をもてあましていまして。でも料理することが楽しくなってからはそちら方面とはさっぱり手を切ったんですが、…あの男はいまだに並盛に執着しているようですね」


まったく成長しない男だ、と骸は嘆息した。