一方、綱吉は。
無理やり会話を終了させて切ってそのまま、携帯を握り締め冷や汗を流していた。
(だ…大丈夫だよな?ヘンに思われてたりしてないよな?)
先ほどの自分の言動を思い出す。多少強引だったかもしれないが、断りの理由も真っ当なものだった。うん、大丈夫なはずだ。綱吉は一人で何度も頷いた。
もしも自分の意中の人がいつも閉店後店へやってくるなんてことが知られたら、骸のことだ、絶対おもしろがって嬉々としてやってくるに違いない。それが容易に想像できて、綱吉の顔は赤くなるのを通り過ぎて青くなった。あの男は人で遊ぶためなら地の果てまでやってくるような性格をしているのだ。
(あ…あとで保険代わりに凪に電話して来ないよう頼んでおこう…!)
可愛がっている妹からお願いされればいくら骸でも逆らえないだろう。よし、じゃあもう一寝してから…ともぞもぞと布団の中へ再び潜り込む。ああ幸せ。本当ならばあと3,4時間は優に寝てられていたのだ。それをあいつが…ぶつくさと口の中で文句を言いながら、先ほど骸の話を思い出す。
「並盛の支配者、かあ」
リボーンからも、花や京子からもそういった人の話は聞いたことがない。喧嘩が強い(らしい)骸が怪我するくらいだから、同じくらい強いんだろう。筋肉はムキムキでプロレスラーみたいに大きくてごつくて、ゴリラみたいな顔をしているに違いない。想像してみたら鳥肌がたってしまった。怖い。
…そんな人が恭弥さんを怪我させたのならば、絶対に許せない。綱吉は唇を噛んだ。治療するときに見た彼の怪我が脳裏に浮かぶ。意外と着やせするタイプだったのだろう、半ば無理やり脱がした上半身は筋肉もしっかりついていて、あんなときでなければ見惚れるほど引き締まっていたが、腹にも背にも浮かぶ、打撲の跡は見ていて顔が歪むほどに痛ましかった。あの後、綱吉が泣き止んだ後はいつものように食事を取ったが、口の端の擦り傷が時折沁みるのか、眉をしかめていた。誤魔化すように酒を飲みたがったが、もっと傷に沁みるから駄目だというと、仕方ないねと目元をゆるませた。本来ならば客に対しそんなことは言ってはいけないのに。なのにあの優しい人は怒りもせずに微笑んでくれるから、
だから。
(あの人が痛い思いをするのは嫌だ)
彼が強い人だろうことはなんとなく分かる。自分よりもずっと強くて、凛々しくて、美しい。精神的な意味においても、身体的な意味においても。だが、それでも。嫌なものは嫌なのだ。
そんなことを考えていると遠ざかっていた眠気が急速に襲ってくる。綱吉はそれに抗いもせずに身をまかせる。最後に思ったことは、恭弥さんの傷に沁みないご飯を作らなきゃ、だった。