夜11時を過ぎた。あと少しで恭弥が来る時間だ。食事の用意をしながら、ふと綱吉は今朝骸が言っていたことを思い出した。

(そういえばうちの客ってやけにリーゼント多いけど…)

ヒバリキョウヤの部下なのだろうか、そう考えてすぐに綱吉はふるふると頭を振った。そんなはずはない。皆いい人ばかりだ。いつも綱吉のことまで気を使って、帰る際には必ず挨拶してくれたり、どれがおいしかったとか感想もくれる。

(きっと今またリーゼントが巷で流行してるんだろうなぁ)

流行は巡るものだって、リボーンも前に言ってたもんな。流行とはほど遠い位置にいるのがリーゼントではないだろうかと、もしも綱吉の思考が読める人間がいればツッコんでくれただろうが、あいにくこの場には読心術を持つ人はいなかったので、彼女の勘違いはそのままだった。


口を大きく開かなくてすむように、今日の料理は比較的どれも小さく切られたものが多い。魚のだしでしっかり味のついたツミレ入りスープは彼のお気に入りだ。それに炊く前に塩を少々振りかけて、よく噛むとわずかに甘さが口に広がる玄米。小さいころからその味に慣れていたらしく、最初に店で玄米をだしたときに食べるのは久しぶりだと口をほころばせていた。出し巻き卵は完全に硬くならないように、中がとろりとしているうちに包み込む。


準備をしているとあっという間に時間はたってしまう。そのほかにもいろいろと用意をして、皿に移して完了。綱吉が恭弥の相手をしている間に食べてもらう花と京子のまかない食も作った。よどみなくてきぱきと動く彼女に、片付けを終わらせた花が声をかける。

「ごめん、沢田。もう京子帰らせてもいい?」
「え、うん、いいけど、どうかしたの?京子ちゃん」
「ちょっと…なっちゃったみたいで」

あわてて厨房からでて、いすに座っていた京子に近づく。いつもは血色のよい顔がわずかに青ざめていた。

「ナプキン、もってる?」
「あたしがひとつもってたの渡した」
「そっか、…大丈夫?」
「でもあと少しだから…」

帰るのを躊躇う京子に、花は首を振る。

「何いってんの。あんた、一日目がつらいくせに」
「そうだよ、無理しないで。黒川もうあがっちゃって、京子ちゃん送ってあげて」
「あんた一人で大丈夫?」
「うん、平気」

そっか、花は頷いてから2階に荷物を取りに行った。

「ごめんね、ツナ君」
「全然平気だよ。明日つらいようだったら休んでいいから。…あ、」
「?」

そうだ、と先ほど用意した二人のまかない食をそれぞれタッパーにつめて京子に渡す。

「食べられるようだったら食べてね。こっちは黒川の分」
「うん、ありがとう」


「じゃあ、今日はお疲れ様。京子ちゃん、ゆっくり休んでね!黒川は、また明日」
「お疲れ、また明日」
「お疲れ様。おやすみなさい」

二人を乗せた車を見送った綱吉はそのまま店に戻る。と、後ろ手で閉めかけたドアを逆に開けられ、


「やあ」
「恭弥さん!」


驚いて振り返り、いらっしゃいませと言うと恭弥は軽く頷いて店に入り、狭い店内を見回した。昨夜とかわりばえしない傷跡に綱吉の目が翳った。

「あれ、今日は他の子たちはいないんだね」
「あ、はい。ちょっと具合が悪くなっちゃって…」

ふうん、と興味なさげに相槌をうつと脱いだコートを綱吉に渡して個室に向かう。その後を綱吉はトレイで用意した料理を運びながら、

(やっぱりヒバリキョウヤって人に怪我させられたのかな…)

気になることを訊いてみようと思った。