元々あまりしゃべらない恭弥だが、今日は普段にまして寡黙だ。その原因が自分がした質問のせいだと思った綱吉は申し訳なさでいっぱいになった。彼女のそんな様子に気づきつつも、フォローができない自分にもどかしさを恭弥は感じていた。そんな思いを抱えたまま会計をする。と、そのとき。
ガララッ、
「綱吉くん、こんば」
扉が開いて外から男が入りかけ、その足を店内に踏み出したその格好のまま止まった。
恭弥の思考が停止する。綱吉からおつりを受け取ろうと(何度いらないといっても譲らないのだ)開いた手のひらは、目的の物を渡されても閉じない。只固まって目の前の男を見るばかりだ。
唖然としていたのは彼ばかりではなかった。扉の取っ手に手をかけて、発することのできなかった『こんばんは』の『んは』の音のために開いた口はそのまま。二人の凍った空気に気がつかない綱吉は、あれほどダメだといったにも関わらず来た知人に文句をつける。
「骸!お前店に来るなってあれほど…!!」
慌てた彼女の声にようやく時間が再び動き出し、骸は咽の奥から搾り出したような掠れた声を出す。
「…どうして君がいるんです?」
「あれ、二人ともお知り合いですか?」
きょとんと首を傾げる綱吉。
「し」
「知り合いじゃないよ、初めて見たこんな不快な髪形」
知り合いも何も、そう続けようとして遮られた骸は何か言おうとして次の瞬間見た光景に限界までその珍しいオッドアイを見開き再び固まる。
「じゃあ、僕はそろそろ帰るね」
恭弥は綱吉の頭を撫でて、柔らかく微笑んだ。その笑顔のまま、目を鋭く尖らせて唇だけを動かし人形と化した骸を見る。
『僕の話をしたら殺す』
骸はがくがくと首を縦に振り、同じように唇だけを動かして返事をする。
『わかりました!わかりましたからその気持ち悪い笑顔を止めてください!!!』
気持ち悪くて気絶しそうだと、全身鳥肌をたてたまま内心絶叫する。それに満足げに頷いた恭弥は綱吉にじゃあね、と囁いて店を出て行った。
店に残ったのは、ようやく笑ってくれた恭弥にほっとしながら相変わらず笑顔が素敵だとうっとりする綱吉と、先ほど見た悪夢に青ざめる、骸だけだ。