真夏の太陽ほど憎たらしいものはない。



ミーンミーン、と蝉が絶え間なく声高に鳴いている。頭の中をエコーしているようなそれにうんざりとしつつ、ギラギラと絶え間なく熱を発する太陽の下を、綱吉はもくもくと歩いていた。溜め息をつく余裕もない。ひたすら店につくことを願って足早に歩く彼女の両手には、たっぷりと中身のつまったビニール袋。全身の汗腺が開いているような気がする。両手がふさがっているため額から伝う汗を拭うこともできない。

(あー…失敗したなあ)

丸々と大きい、あまりにもおいしそうな西瓜を見た瞬間躊躇うことなく買ってしまったことを後悔したが、もう遅い。『後に悔やむ』で後悔、とは本当によくいったものだ。暑さでよく働かなくなった頭でぼんやりと思う。自分の家までは15分ほど歩く必要がある。大きな木の下の日陰に入り、蒸し暑さは残るもののなんとか直射日光から一時とはいえ逃れて、綱吉がほうっと息をついた、そのとき。

「綱吉?」

聞き覚えのある、どころか耳になじんだ声だった。もしやと振り返ると、思ったとおりの人がこちらに向かってくる。真夏の太陽の下、暑さなど微塵も感じていないといわんばかりにきちりとスーツを着込み、汗などかいていないような涼しげな顔は少し驚いていた。

「恭弥さん、」
「やっぱり君だ。…驚いた」

まさかこんなところで会うなんて、そう言って頬を弛ませた相手は綱吉の両手をふさぐものに目を留めて、心持ち首をかしげた。鴉色の艶やかな髪がさらりと揺れる。

「買い物の帰り?」
「あ、はい。美味しそうな西瓜があったので、つい買っちゃいました」

よっこいしょ、と重さの大部分を占める西瓜を掲げてみせると、恭弥は形のよい眉をついと寄せた。

「こんな暑い日に重たいものを持って外を歩くなんて、日射病で倒れたらどうするの?」
「帽子被っているから大丈夫ですよ?」
「それだけじゃない、君の手は料理するためのものだ。何かあったら大変だろう」

いつになく強い物言いに綱吉は目を瞬かせた。恭弥はハッとして口をつぐむ。きつく言い過ぎただろうか。そんな彼に綱吉はふんわりと微笑んだ。

「心配してくれてありがとうございます」
「別にお礼をいわれるようなことなんて、…それ、貸して」

言うなり2つのぱんぱんに膨らんだ袋を取り上げる。

「せっかくだから、荷物もちでもするよ」
「と、とんでもないです!」

ぶんぶんと首を振り、奪われた荷物に手を伸ばすが、いいからと遮られてしまう。恭弥は綱吉が両手で精一杯だった荷物を片手で軽々と持つと、もう片方の手で胸ポケットから装飾品などいっさいついていないシンプルな黒い携帯を取り出して電話をかける。

「僕だけど、私用ができた。…うん、任せる」

それだけ言って切るとまた元の位置にしまい、綱吉に視線を戻した。

「それじゃあ行こうか」



拒否権はないよ。にっこり笑った顔にはそう書いてあった。