からん、華奢な掌の中、コップの中の氷が涼しげな音を立てた。甘味のある柑橘系のジュースを途中まで飲みほし、綱吉は安堵したように深く息を吐いた。同じように――ホットの紅茶だが――カップ片手に優雅に飲みながら恭弥は向かいに座る綱吉の顔色が大分良くなってきたことにほっとする。

本当は声をかけるつもりはなかった。閉店後の彼女の店とは違い、誰の目に付くかわからない外だったからだ。かつて咬み殺した人間、つまり自分の正体を知っており、かつ怨みを抱く人間がそれを見ないとは限らない。だがおぼつかない足取りで今にも倒れそうな様子で日陰に向かい、肩で息をする姿にそうも言ってられないと一歩踏み出した。
あの時の判断は正しかった。多分、あのまま放っておいたら倒れるのも時間の問題だっただろう。
道の途中の喫茶店に――半ば無理やりとはいえ――入ってよかったと思う。
安心して綱吉を見て、そのまま恭弥は声を失った。
いつも見る着物姿ではない。夏らしい、空色のキャミソールの上に網目の荒い白いストールを両肘まで被るようにかけている。下は踝まで届きそうな真っ白なロングスカートだ。
仕事中は首の付け根から結んでいる髪は今日はそのままで。

(…可愛い)

見惚れていると、綱吉は何を誤解したのか、

「顔に何かついてますか?」

両手でペタペタと顔に触れる。

「いや、ついてないよ。…着物以外を着ているのを見るのは初めてだと思って」
「あ、」

自分の着ている服を見直して、おずおずと綱吉は上目遣いに恭弥を見た。

「へ、変ですか…?」
「ううん。可愛い」
「か、」

見る見るうちに真っ赤になる綱吉に、恭弥はもう念を押すように頷いた。

「すごく可愛い」
「あああああああ、あの!もったいない言葉です!」

オレなんて、とどもる彼女に、恭弥は少し眉をよせた。

「本当にそう思っただけだよ」
「きょ、恭弥さん!もう行きましょう!?」

これ以上恥ずかしくさせないでください!
内心絶叫しながら綱吉は勢いよく立ち上がる。その様子に首をかしげながら、恭弥もそうだねと席を立った。







とりとめのない話をしていたら、あれほど長いと感じていた帰り道が嘘のようにあっという間に『あさりや』についた。
鍵を取り出し店の扉を開ける。荷物をテーブルに置いて、綱吉は恭弥に向き合った。

「本当にありがとうございました!」
「どういたしまして」

彼女にならうように同じところに荷物を置いた恭弥は微笑む。明るい時間からこの店に入るのは初めてだ。

「あの、このままお食事していきますか?」

もしそうなら、すぐに仕度しますけど。
手首につけていたゴムを取って後ろ髪をきゅっと結んだ綱吉はしかし、はっとして、

「あ、でもお仕事がありますよね」
「このままいただくよ」

早く帰らないとなどと言い出す前に恭弥は返事をして、カウンターに腰を下ろした。

「え、でも、」
「悪いけど、このまま作ってもらってもかまわないかな?」
「、はい!」

綱吉は大きく頷いて、厨房へ入っていった。