「久しぶりだな」

優雅にエスプレッソを嗜んでいた青年はドアから入ってきた恭弥をちらりと見てニヤリと笑った。感情を読ませない深い闇色の瞳。機嫌がよさそうにそれを細め、挨拶した彼に恭弥も口の端をあげる。

「そうだね。元気そうでなによりだ」
「お前もな。…少し雰囲気が変わったか?」
「そう?」

気のせいだろうとばかりに恭弥は肩をすくめ、草壁が出した紅茶を口に含んだ。彼にわかるほどに雰囲気が変わったというならば、それは間違いなく綱吉の影響だとちらりと頭の片隅で思うが、そんな思いは微塵も見せない。

「以前よりもいい顔をしているぞ」
「君にそういってもらえるなら光栄だな。…それで、ここにはどれくらいいるんだい?」
「しばらくはいるつもりだぞ。仕事でもプライベートでも、野暮用ができたからな」
「へえ」
「また暇なときには呑みにでも行くか」
「君とならいつでも空けておくよ」
「お前も忙しいだろうに。そんなこと言っていいのか?」
「勿論」

恭弥は頷いた。一緒に過ごしていて快適な相手は少ない。そんな相手のためなら多少の時間は惜しくはないのだと言う彼に、年下の青年は興味深そうに、探るような視線を彼に向けた。

「やっぱり変わったな。好きな女でもできたか」

ガシャンッ、

机に置こうとしたカップから、勢いが良すぎて紅茶が零れた。顔だけは平静なままの恭弥の手は零れたもので濡れている。

「ホレ、使え」
「かまわない。自分のがある」

恭弥は胸ポケットからハンカチを取り出して手を拭く。しばしの沈黙の後、クッと笑いを押し殺すような声が聞こえた。

「…なに」
「いや、…クク、お前がそんな分かりやすい奴だと思わなかったぞ」

笑いを堪え切れない青年を睨みつける。その裏にある羞恥心すら承知の上だといわんばかりの彼がどうにも憎たらしい。

「どこのレディだ?お前の心を盗んだのは」

からかうようなその問いに恭弥の顔が引き締まった。おやと瞠目する青年に、恭弥は真剣なまなざしで口を開いた。






「…沢田、綱吉。君の、従姉弟だ」