比較的長い付き合いのつもりだが、彼のこんな表情は始めて見る。恭弥はやけに冷静に思った。
絶句した青年、リボーンが何か言おうとするのを制止し、恭弥は続ける。

「そのことについて話さないといけないと思っていた。君が日本を離れていた2年間、僕がしていたことは紛れもなく契約違反だ」


『契約違反』
リボーンと恭弥、いや雲雀恭弥が交わした、契約。
元は恭弥の所有する土地であったあの場所を譲り、以後その持ち主となる者及び周囲には関わらないこと。



彼らのような仕事をしている人間にとって、そのまま信用に繋がる契約は破ってはいけないものだ。信用されなくなるだけでない、下手をすればその業界にいられなくなる。誰よりもそのことを承知しているであろう恭弥は、だがそれを破ったと契約を交わした張本人に言う。
黙っていればばれないままでいただろうに。
そう思い、ポーカーフェイスの下でリボーンは苦笑した。まったくもって彼らしい。初めて会った頃と変わらぬ信念。偽りを厭い、弱い者が群れることを何よりも嫌う雲雀恭弥。彼は本当に潔く、自分をけして誤魔化さない。裏切らない。

「何をしたと?」
「君がいなくなってから、ずっとあの子の店に客として行っていた」
「ほう。あいつの食事が気に入ったのか」
「ああ、そうだね。愛情たっぷりの料理っていうのはああいうことをいうのかと思ったよ」

先日食べたものを思いだし、薄く笑む彼に、まあそうだろうなとリボーンは返した。

「そこがあいつに惚れた要因か?」
「いいや、そこもあるけど、僕が一番好きなのは、…違う、そういう話をしたいんじゃないんだけど」

綱吉の話に夢中になりかけ、恭弥ははっとして、ごほん、と咳払いをした。ニヤニヤと笑う青年はゆったりと足を組みなおす。そういった気障な動作が似合う男だった。

「お前から惚気が聞ける日がくるなんて思わなかったな。…ダメツナもやるじゃねーか」

ひとりごこちる彼の表情は明るい。

「ヒバリ、」
「なに」
「契約違反については多めに見てやる。なんつったって俺とお前の仲だからな」

どうせお前のことだから、自分で行くだけじゃなく部下にも守らせているんだろう、と。
幼いころから恭弥の性格をよく知る彼は言ってのけた。隠すことでもないので恭弥は素直に頷く。

「ああ」
「お前は昔から大切なものは全力で守るからな。…ツナがその範疇に入っているなら、俺は何も言わない」

恭弥は双眸を瞠らせた。彼の知るリボーンという男はけして甘い人間ではない。その彼がここまで自分に都合のいいようなことを言うだろうか。

「…それは、綱吉の従兄弟としての言葉?」
「ああ」
「じゃあ、仕事相手としての君は?」

しばしの沈黙の後、彼は恭弥を流し見た。情を感じさせない酷薄な闇を、恭弥は黙って見つめる。

「貸しにしておいてやる」
「分かった。…よかったよ、タダより高いものはないからね」

特に君の場合は。
淡々と呟き、残っていた冷めかけの紅茶を口に含んだ。つられるようにリボーンも手の中のコーヒーを啜る。

「お前にはそれだけの価値がある。…だろう?」
「期待に添えられるようにするよ」

静かな部屋にカチャ、と紅茶のカップが机に置かれて響く音が響いた。