そろそろお暇すると腰を上げたリボーンは、また連絡をすると言って去って行った。それを見送り、恭弥は天井を仰ぐ。
ふう、と意識せずとも息が漏れた。安堵のためか、それともガラにもなく少し緊張していたせいか。
しかし今日彼に会えたことは何よりの収穫だった。
雲雀恭弥とは別の意味で、最強と名高い彼を敵にまわすことはとても厄介だ。もちろん彼への個人的好意は別としても、敵になるなら容赦はしない。徹底的に、潰す。それはむこうも同様だろう。それゆえに彼はどの世界においても成功し、生きている。
だが今、沢田綱吉という女性を自分の世界の中心においてしまった今の恭弥はかつての彼ではない。心優しい彼女の従兄弟であるリボーンを敵にまわすことは何よりも避けたかった。だからこそ契約を破ったことを容認してくれたリボーンに感謝せずにはいられない。
そしてもうひとつ。
リボーンが恭弥の綱吉への想いを黙認した事実は恭弥に意外なほどの力を与えた。力というよりは、自信。もしくは、勇気。誰かにこの想いを認めて欲しかったのかもしれない。
今まで彼は綱吉に嫌われることを恐れていた。並盛の支配者という肩書きをもつ雲雀恭弥という存在がいつか彼女を傷つけるかもしれない(それはけして杞憂ではなく、現実としてありえることだ)ことはもちろん、彼女にとって暴力をふるう人間の代名詞が自分だと知られたとき、彼女がそのまま自分を嫌う、あるいは恐れることが怖かった。その瞬間に終わってしまうと思っていた。
けれど彼のあの言葉を聞き、どうせなにもしないうちに終わってしまうならば精一杯彼女に好いてもらう努力をしてから終わろうとふと思ったのだ。
彼女に嫌われていないことは知っているが、それと恋愛感情とは別物だ。想いを告げて、正体を明かして自分が今まで彼女をだましていたことを赦してもらいたい。すべてはそれからだ。
「うん、」
そうだ、それがいい。雲雀は一人頷く。
回りくどい真似は自分には合わない。行動を決意すると今まで長い間自分の中を巣食っていたもやもやが晴れていくような気がした。
去り際にリボーンが例の意味深な笑みとともに投げつけた言葉を思い出す。
『飲みに行くのはお前とツナがうまくいってからでいいぞ。そのほうがお前も、いい酒が飲めるだろう?』
近い未来にその日がくればいい。そう、思った。