テーブルの上にあったすべての料理を食べ終わったリボーンは、次いで差し出された熱いお茶を静かに啜った。

「ふん、悪くはねえな」

そういうことでは嘘をつかない従兄弟の遠まわしな賛美に、綱吉は頬をゆるませた。
子どものときから母の料理する姿が好きだった綱吉が、母の真似をしてつたない手つきで作ったものをまずいまずいといいながら、それでもすべて食べてくれた彼が、初めて今と同じ台詞を言ってくれたときのことを、彼女は今でもはっきりと覚えている。

「ありがと」



開店前のこの時間は、仕込みが終わってしまえばそう忙しくはない。一息つけようとした、そんなときを狙ったように、なんの連絡もなく久しぶりにリボーンは現れた。

「まったく。帰ってくるなら帰ってくるって前もって電話でもしてくれればよかったのに」
「それじゃあつまんねえーだろう」

にや、と昔から変わらない口の端だけの笑みを見て、やれやれと綱吉は肩をすくめる。2年ぶりとは思えない。まるで昨日ぶりだとでもいうようなかんじだ。


「前よりもレパートリーが増えたな」
「そりゃまあ、一応勉強してますから。それに、現状に満足するなって言ったのはお前だろ?」

空いた時間を使って評判のレストランへ行ったり、新メニューについて考えたり。
勿論つらいときもあるが、それ以上に毎日が充実している。好きなことで食べていけることがどれほど幸せか、綱吉は知っている。
微笑んだ綱吉にリボーンは鼻をならした。昔から自分に自信のない子どもが、ここまで言えるほど成長したことに満足する。

「ダメツナなりにやってる、ってところか」
「ダメツナ言うなって」

苦笑いする綱吉を見ながら、先ほどまで会っていた知人を思いだす。
綱吉に惚れていると語った恭弥の目の真剣さ。よもやあの男が恋愛感情なんていうものを持つ日がくるなんて、しかも相手が綱吉だなんて、本当に人生とは何が起こるかわからないものだ。
空になった食器を片付け厨房に戻り、今のうちに洗ってしまおうとスポンジに洗剤をつけた綱吉を呼ぶ。

「ツナ」
「ん?」

顔を上げないまま返事をする彼女を見る。相変わらず小さい。2年間会わない間になにか変化しただろうかと思ったが、変わったのは髪の長さくらいだ。

「お前今好きなやつでもいんのか」


綱吉は手にしていた泡のついていた皿を落とした。


「なななななななに言ってんのいきなり!!!??」
「いるんだな」

頭から湯気を出す勢いで真っ赤になり、呂律のまわらなくなった綱吉を見て、わかりやすいやつだとリボーンは呆れた。

「リ、リボーンには関係ないだろ!!」
「関係ないといえば関係ないが、あるといえばある」
「…なにそれ」
「ダメツナごときが俺様に隠し事するなんざ、100億年早いって話だ」
「自己中だなオイ!!」

勢いでツッコミを入れ、幸いにも割れなかった皿の泡を水で落とす。流れる水に意識を持っていこうとするが、うまくいかない。

「ホレ、さっさと白状しろ」

ふんぞりかえりながら言う従兄弟と目が合う。自分の弱みを何もかも知り尽くしている相手にだんまりは通用しないことは経験上よく知っている。蛇口をひねり、水を止めてしぶしぶと綱吉は口を開いた。

「…うちの常連さん…」
「ほう…。ちなみに外見は?」
「…なんでそんなこと訊くんだよ」
「いや、お前の初恋だからな。どんな奴が好みなのか知りたいと思っても不思議じゃねえだろ」

嘘も方便。リボーンはぬけぬけとのたまった。綱吉は彼の言葉にさして疑問を持つわけでもなく、(一度白状してしまったからだろう、今度はそれほど拒むことなく)口を開いた。

「外見って…。すごく格好良くて綺麗な人、だよ。うらやましいくらい綺麗な黒髪で…ああいうの濡れ羽色って言うんだっけ」

脳裏に恭弥の姿を描きながら答える。彼の艶やかな髪と、瞳の色。優しい夜の色だ。

「意外だな。お前、面食いだったか?」
「別にそんなつもりはないよ。あの人が特別なだけ」

さらりと言った綱吉の言葉にリボーンは呆れた。
惚気やがった、こいつ。
しかし普段から幼いころからやたらと周囲の美形率が高い綱吉の美的感覚が(本人の自覚はないにしても)高いことをリボーンは知っている。その綱吉がここまで言うということは、惚れた弱みを差し引いたとしても相当な美形だということだろう。

(だったらヒバリの可能性は高いな…)

内心にやりとしたリボーンは鼻をならした。

「それならこの俺が協力してやってもいいぞ。何しろ恋愛のエキスパートだからな、初恋だって俺にかかれば一発で叶う」
「いやいいから!」

余計なことはすんなよ頼むから!と昔の彼にやらされたあれやこれやを思い出して、ぶんぶんと頭を振る。リボーンは残念そうな顔をした。

「ちっ、つまんねえな」
「つまんねえって言ったよね今!?」
「大体お前任せていたら両思いになるまで50年はかかるんじゃねえか?」
「りょ…っ!」

ぼぼぼっと一気に綱吉の顔が火を吹いた。

「両思いなんてそんな…!」

その様子はどう見ても二十歳をすぎた女性には見えない。せいぜい高校生だ。中学生の初恋だって今はもっと進んでいるはずだ。
前途多難だな、とリボーンはため息をついた。