「ツナ、鍵貸せ」
「え、あ、もしかしてうちに泊まるの?」
「ああ。しばらくはこっちにいるからな。ホテル探すのも面倒だ」
「そっか。ちょっと待って。…はい」
「グラッツェ」

幼いころから一緒に生活していたリボーンは、従兄弟といっても兄弟のような関係だ。いまさら躊躇うこともない綱吉は何の疑問ももたずに頷いた。
厨房の隅の貴重品置き場から家の鍵を取り出した綱吉はそれをリボーンに渡す。

「京子と花はまだ来ないのか?」
「もう少しで来ると思うよ。今日はオレ、いつもより早くきたし」
「そうか。…まあ、いい。どうせまた来るから、そのときに土産渡せばいいだろ」
「え、オレにお土産は?」
「家に帰ったら渡してやる」
「やった」

リボーンの選んだものにハズレはない。
嬉しそうに声を弾ませた綱吉は、店を出るリボーンの後についた。

「じゃああとで」
「チャオチャオ」

リボーンを見送って店に入る。
残った洗いものを片付けていると、最後の食器を仕舞ったタイミングを見計らったように扉ががらりと開いた。

「おはようございまーす」
「おはようございます」
「あ、二人ともおはよう」

濡れた手を拭きながら厨房から顔を出す。
残暑もそろそろなくなってきたためか、薄手のカーディガンは気温に丁度よく、バーゲンで購入したらしいお気に入りのカーディガンを花は脱いでいるところだった。バッグからゴムを取り出して髪を結っていた京子はテーブルを見て、あ、と声を上げた。

「あれ、ツナ君携帯代えた?」
「え?」
「カウンターの携帯」

指をさされたカウンターのテーブルにちょこんと置いてある携帯電話を見て、綱吉は声を上げる。

「あ!リボーンの忘れ物だ!」
「リボーンちゃん?日本に帰ってきたの?」
「うん、丁度京子ちゃんたちが来る前に出ちゃったけど。しばらくこっちにいるみたいだから、そのうち顔だすっていってたよ」
「へえ、…お土産が楽しみだわ」

リボーンのお土産を毎回心待ちにしている花は嬉しそうに声をはずませた。

「家に帰ってから渡してもいいけど、…まだ時間あるよね?」

尋ねられ、京子は外しかけた腕時計を見る。

「うん、大丈夫よ」
「じゃあオレ渡しに行ってくる。あいつに仕事で緊急の電話くるかもしれないし」
「わかった。何か特別に準備しておくことはある?」
「ううん、特には。じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい、急いだりして転ばないようにね」
「黒川、オレ子どもじゃないんだけど」
「似たようなものでしょ」

くすくす笑う花に苦笑して、綱吉は携帯電話片手に店を出た。