瞬間ものすごい勢いで心臓が、先ほどとは別の意味で早鐘を打つ。
腕の中の熱に、綱吉を抱きしめていることを改めて自覚してはっと腕をほどく。あ、と小さく声を上げた綱吉は、恭弥をじっと見つめているままだ。

「本当のことだよ。…ずっと、初めて会ったときから綱吉のことが好きだった」

頬が熱くなっている。きっと情けない顔をしているんだろう。けれどこれが、あるがままの自分だ。隠すことはできなかった。

「でも君に嘘をついていたから言えなくて、……綱吉？」
「え、あ、は、はい、」

ぼんやりと自分を見つめたまま固まった綱吉に声をかけると、はっとしたようにどもりながら綱吉は返事をした。頬どころか、額や耳まで赤く染まっている。風邪をひいているのだろうかと、気遣わしげに眉をひそめる。

「大丈夫？熱でもあるのかな」
「え！な、ないですよ、」
「…そう？」
「そ、そうです」
「…でも心配だから。店まで送るよ」
「え、」

くるりと背を向けた恭弥に綱吉は目を見開いた。

「きょ、恭弥さん、」
「なに？」
「え、と、」

口ごもる綱吉に、恭弥は、ああと頷いた。綱吉の好きな、優しい微笑で綱吉を愛しげに見つめる。

「今言ったことなら気にしなくていいよ。ただ僕の気持ちを、君に知っていてもらいたかっただけなんだ」

そう言って再び綱吉に向き合い、その柔らかな髪を撫でる。
自分の正体を知っていても嫌われなかった、怖がられなかった。それだけでこんなに幸せなのだ。

「勿論、僕のことを好きになってほしいけど、」
「好きです！」

あせるつもりはないと続けようとした言葉は綱吉の声に遮られた。綱吉の頭に置かれた手が止まり、笑みが消える。

「そんなの、とっくです。オ、オレだってずっと恭弥さんが好きでした」
「…え、」
「あのとき、恭弥さんが初めてオレの名前を呼んでくれたときからずっと、」
「…本当に？」
「は、い、」
「…つなよし、」

信じられないと呆然と綱吉の名を呼び、しかし腕は勝手に動き、再び彼女を胸に抱きこむ。息をつめた綱吉は、しかしゆるゆると瞳を閉じて恭弥の背に腕を回した。恭弥の身体がぴくりと動く。
夢みたいだ、吐息とともに吐き出されたその言葉に、綱吉はこくりと頷いた。

「でも、夢じゃ、ないです」
「うん、」

きつく抱きしめ、綱吉にだけ聞こえる声で何度も囁く。好きだ。君を、君だけをずっと愛してた。
心臓がきゅうっと締め付けられ、苦しい。それなのに嬉しくて、気づかないうちにまた流れている涙にかまうことなく綱吉は、何度も頷いた。

「オレ、オレも好きです、恭弥さん。きょ、…んう、」

呼びかけた名前はそのまま飲み込まれ、一つになった影をみるものは誰もいなかった。