ここ一年以上自分たちの間で話題にでない日はない、小さな和食処がある。



まだ20代の若い女性たちが切り盛りしている、並盛の外れにある小さなお店だ。常連のおかげでやっていけるような質素さ。大丈夫かこの店は、なんて初めて訪れたときは余計な心配をしてしまったほどだ。
しかし一度そこの食事を出されたらやみつきになる。
そこまで高級なわけではない、むしろだされる量と手間を考えれば安いのではないのだろうか。けれどそこは他の、普通にある料理屋とはちがうのだ。なんといえばいいだろうか、勿論とてもおいしいけれどそれだけじゃない。くさい言い方になってしまうが愛情がたっぷりこもっている。そうとしかいいようがない、疲れたときにはそこの食事が恋しくなって楽しいときもそこの食事を思い出してますます幸せになる。そういう食事を作る人だった。和食処『あさりや』女主人、沢田綱吉という人は。


話は変わるが人生の半分以上仕えてきた上司がいる。彼が表には出ず裏からこの町を支配して10年以上たつ。誇り高い野生動物のような彼は己の所有物である並盛に対してはひどく執着しているが、それ以外のことに対して無関心な人間だった。そもそも並盛以外のことに関しては、強さにしか興味がない彼である。群れる草食動物と呼ぶ、弱い存在を嫌い、自分と同格の戦闘力を持つ人間以外を人として認めていない。
そんな、戦闘と並盛にしか興味のかけらも持たない彼、雲雀恭弥が初めて並盛以外のことで命令を下した。

『週に何度か『あさりや』で食事をとり、性質の悪い客を排除すること。また、近隣の見回りをばれぬように強化すること』

彼に忠誠を捧げる者のみで構成されている部下らは(自分も含め)、どんな命令でもこなす自信がある。だが断言してもいい、今まで彼が下してきた命令で、これ以上に自分らが喜んだ命令は存在しないだろう。そしてその命令は雲雀恭弥という王がどれほど『あさりや』に、否、『沢田綱吉』に執着しているかを表す、なによりの証であった。実際店を訪れて彼女の姿を見、そして彼女の料理を口にした者は残らず理解した。自分たちの尊敬する上司は間違いなく彼女に何らかの感情を抱いている。友情か恋愛感情か、はっきり言い切れないのは上司と沢田綱吉が二人でいるところをみたことがないためだ。だがそのかわり閉店後に毎日彼が店に通っていることは知られている。そして店からでた後の彼の機嫌がいいのもいつものことだ。これは恋愛感情とみて間違いないのでは、という意見が大多数。いや現段階では友情かもしれない、と思う者たちも、その感情もやがて恋愛感情に変わるだろう、とのことだ。
そして店の常連になり早1年半。彼女の人となりをすこしずつ知るにつれ、自分たちはますます思いを一つにさせる。



我らが尊敬する彼と心優しい彼女の結婚式を見るまでけして死ぬものか、と。



その思いを胸に、彼らは今日も『あさりや』に通い、密かに彼女を護衛するのだ。