週に一度の休日は二人にとってとても貴重なものだ。休みなどあってもないようなものだった恭弥だが、結婚すると綱吉にあわせて休日を取るようになった。
さて、夫の仕事のある日は彼より早く起きてお弁当を作り、それから二人で朝食をとることが習慣と化した綱吉だが、休日はその限りではない。
遅く起きてそのまま布団でだらだらと恭弥とすごす日もあるし、前日に計画を立てて二人で出かけることもある。


いずれにせよめったに喧嘩することのない仲睦まじいこの新婚夫婦は、付き合い始めてから(そして周りに言わせればそれ以前から)お互いにめろめろなわけで、不平不満など1ミリたりともない幸せな日々を送っていた。

これは慎ましやかな式を挙げてから3ヶ月ほどたった、とある休日の朝の話。









そんな彼らのとある朝









チチチ、遠くで鳥がさえずる声が聞こえ、恭弥はうっすらと目を開いた。真っ白なカーテン越しに洩れる優しい光彼の顔を照らす。
ああそうだ、今日は休日だったと欠伸をひとつして眠気を完全に振り切ると、今は何時だろうかと、枕元におかれた時計に手を伸ばす、と。その拍子に振動が伝わったのか、もう片方の腕に抱きこんだその子が身じろぎをした。


「…ん、」
「綱吉?」


愛おしくてたまらないといったように目を細めて愛妻の名を呼ぶと、うとうとしていた綱吉は目を擦りながら間近で微笑む恭弥の首筋に顔を擦り付けた。


「おはよう、綱吉」


ちゅ、ちゅ、ちゅ、と額、鼻の先、そして最後にさくらんぼめいた甘い唇に音を立ててキスをする。くすぐったそうに綱吉はおはようございますと返事をしてからお返しといわんばかりに恭弥の両頬に軽いキスを送り、最後に同じように唇にもひとつ。


「外はいい天気だよ」


綱吉からの口付けを満足そうに受け入れた恭弥は内緒話をするように、ひそやかに言った。その言葉に彼女はカーテンの隙間をみて、本当だと呟く。前日までの大雨が嘘のようだ。

恭弥は上半身を起こして伸びをした。彼にならって身体を起こそうとした綱吉は片手で制される。


「今日は僕が朝食を作るから、君はまだ寝てな」
「え、でも、」
「いいから」


簡単なものしか作れないけどと微笑みながら布団からでる夫にお礼を言おうと口を開いた綱吉はそのまま赤くなった。なにしろ彼は裸だったのだ。
そんな彼女のいつまでたっても慣れない初々しい様子に、恭弥は楽しげにいい加減慣れなよと熱くなったその頬をつつくと椅子にかけてあった着物に腕を通して慣れた仕草で着ながら寝室を出て行った。


「慣れませんよぅ…」


…後ろから聞こえたか細い声に肩を震わせながら。









ゆったりと朝食を取って、二人で片付けをする。天気が良い日は家事をすることすら楽しいと綱吉は鼻歌を歌いながら洗濯物を干す。
その間に恭弥は家中に掃除機をかけた。2時間もしないうちにすべての仕事を終わらせて、二人はふう、と息をついた。


「さて、今日は何をしたい?」


奥さん、と。普段は名前で呼ぶくせに、時折こういった呼び方をする恭弥にふんわりと笑顔を返す。


「ええと、お買い物に行きたいんです」


夕飯を何にするか、まだ決めていなくて。恭弥さんは何が食べたいですか?
首を傾げる綱吉に苦笑する。本職にしているとあって、綱吉の料理に対する情熱は結局仕事中だろうと私生活だろうと変わらないのだ。


「それは二人でスーパーにでも行ってから決めればいいんじゃない?」
「それもそうですね。でもそれなら、夕方になってからのほうが安くなるから…」
「その前に散歩でもして?」
「はい!」


主婦らしく金銭的なことにはきっちりしている綱吉である。


「せっかくだから今から出かけよう。そろそろ梅の花が満開なはずだから」


そう遠くないところに梅や桜といった春の花の名所がある。そこに行こうと誘うと、綱吉はそれこそ花に勝るとも劣らない笑顔を浮かべて大きく頷いた。


「じゃあお弁当、用意しますね!」


すぐに作りますから!
言うなり台所に駆け込む彼女を見送り、恭弥は携帯電話を取り出して右腕を呼び出すなり、簡潔に用件を告げて切る。優秀な部下のことだ、すぐに自分の命令を実行に移すだろう。
これでこの日一日、これから二人が向かう名所は貸切状態になる。恭弥は満足げに頷くと、妻の手伝いをするべく台所に向かった。











日々膨れ上がる幸福をかみしめながら。
(いつまでもこうして二人でいれたらいい)