GWも終わりが近づいた、5月5日。一般的には子どもの日とされるその日の朝7時、普段店が休みの日はそれこそ牛のように自堕落に眠る綱吉はしかし目覚まし時計がピピピ、と鳴るのと同時にそれを止め、むくりと起き上がった。時計を見て満足げに頷き、そして。
気合を入れるように拳を握り、

「よし、がんばろう!」

大きく一つ頷いて、慌しく着替え始めた。








五月五日のお話








大量の書類を片付けた恭弥は肩に手をやり首を回した。こきり、と音を鳴らして時計を見る。3時をすぎたところだ。仕事を終えたら恋人のもとへ訪れようと思っていた彼は、丁度良いと書類を束ねて片付け始める。珍しく連休を取って店を休んだ彼女とできるならばずっと過ごしていたかったのだが、あいにくと片付けなければいけない仕事がいろいろとできたため、ここ3日ほど仕事場に篭っていたのだ。
だがこれで早急に終わらせなければいけない仕事は終わらせたし、問題はないだろう。
出かける旨を告げようと部下を呼ぼうとしたとき、タイミングよく扉がノックされた。

「入って」

カチャ、

ノブが回されて扉が開く。それを見やりもせずに席を立って書類を片付けながら、

「僕はこれから出かけるから」

恭弥がそう告げると、すぐに了解の返事があるはずの部下の声はせず、代わりに耳に心地よい可憐な声がした。

「え、そうなんですか」
「、綱吉?」

聞き違えるはずもない、最愛の恋人のそれに驚いて顔を上げる。

「はい。こんにちは、恭弥さん。お仕事の調子はどうですか?」

ふんわりと微笑みながら自分に近づく綱吉に、驚きに見開いた瞳はすぐにやわらかなものに変わった。

「丁度よかった。一区切りついたから、今から君のところへ行こうと思ってたんだ」
「そうなんですか?」

すれ違いにならなくてよかった、とほっとしたような彼女に、恭弥は小さく笑う。

「それより綱吉がここに来るなんて珍しいね」
「え、と、あの、」

少し口ごもって、ちらりと上目遣いに恭弥を見る。わずかに紅潮した頬に首をかしげると、意を決したように後ろ手で隠していた箱を出し、恭弥へと差し出した。

「誕生日おめでとうございます」
「…ああ、そういえば今日だったっけ」

僕の誕生日。
とぼけたような声に、綱吉は、え、と呆れたような声をだした。

「忘れてたんですか?」
「うん、そんなに重要でもないからね」

頷いてから差し出されたものを受け取ろうと手を出すと、何故か綱吉は恭弥の手から逃れるようにその箱を抱えなおす。

「? 綱吉?」
「重要、ですよ」

首を振りながら綱吉は否定した。表情を引き締めて、じっと彼を見つめる。

「貴方が生まれた日です。大切じゃないわけないでしょう。…オレの誕生日はすごく祝ってくれたのに、自分のことはおろそかにするなんて、恭弥さんらしいといえばそうだけど」

そういうこと言わないでください。
眉を寄せてそう言う彼女に、恭弥はうんと生真面目に頷いた。

「そうだね。…僕が生まれなければ、僕は君と出会えなかったんだから」

親に感謝しないと。
その言葉に綱吉はそうですよ、と花がほころぶように笑んだ。そして抱えていた箱をもう一度恭弥に渡す。

「どうぞ、恭弥さん」
「開けても?」
「はい」

片付けた机の上に、奇麗にラッピングされたそれほど大きくない白い箱を置いた。包装を丁寧にはがして、箱の蓋を取る。中身を見て、恭弥は目を見開いた。

「お口に合えばいいんですけど…」
「君が作ったの?」
「はい。普段お菓子はあまり作らないので、ちょっと自信がなかったんですけど」

箱の中に入っていたのは、直径20センチほどのチョコレートケーキだった。

「あまり甘くないようにしたので、恭弥さんも食べれると思います」

でも甘すぎると思ったらすぐに作り直すので、言ってください。
綱吉の言葉に恭弥はふるふると首を振る。

「君の作ったものならなんだって美味しいに決まってる。ありがとう」

最高のプレゼントだ、と本当に嬉しそうに微笑む恭弥に、綱吉も満面の笑みになり、もう一度祝いの言葉を口にする。


「お誕生日おめでとうございます、恭弥さん」






貴方という人が生まれてきたこの日に、心からの祝福を!